2020/01/30
寺院の彫刻 その73(シヴァ23 アルジュナに恩恵を与えるシヴァ)

今回は叙事詩マハーバーラタの主人公の1人アルジュナとシヴァの話です。
『ユディシュティラとビーマが来たるべきカウラヴァとの戦いに備えて議論を行っていると、ヴィヤーサ仙が現れ、カウラヴァとの戦いに勝つ為にはアルジュナを神々の元へ送り、神々の武器と武術を学ばせるべきだ、と助言を残した。
アルジュナはその助言に従ってインドラキーラ(曼荼羅山)へと向かい、そこでインドラ神と「シヴァ神に認められれば天界の武器を全て授ける」という約束を取り付けた。

アルジュナはその後ヒマラヤの北を目指し、とある深い森にて、シヴァ神と出会う為に苦行を始めた。
始まったアルジュナの苦行の凄まじさに森の苦行者達は恐れをなし、シヴァ神に祈りを捧げた。
その祈りを聞き届けたシヴァ神はアルジュナの元に狩人の姿となって現れた。
ちょうどその時、ムーカというダーナヴァ(魔族)が猪の姿となってアルジュナを襲った。
それを見たシヴァ神はムーカを矢で仕留めたが、アルジュナもまた同時に矢を放ち、ムーカを射貫いていた。
二人はどちらが先にダーナヴァを仕留めたかで口論となって戦いを始めたが、アルジュナは敵わず組み伏せられてしまった。
そこでアルジュナはその猟師がシヴァ神であることに気付き、許しを乞い願った。
シヴァ神はアルジュナを許し、パーシュパタアストラ(Pashupatastra)という武器を授けた。

アルジュナがシヴァ神に認められた事を知るとインドラは喜び、アルジュナを天界へと招いてありとあらゆる天界の武器を授け、その使用法を伝授した』という話です。
彫刻としてはイノシシを挟んで左右に弓を射る人物がいれば確実にアルジュナとシヴァです。
南インドのカンチープラムにあるカイラーサナータ寺院にはシヴァとアルジュナがまさに戦おうとしている迫力ある像があります。
足元にはイノシシです。

南インドカルナータカ州のホイサラ朝寺院では基壇に好んで彫刻されています。

PATTADAKALにあるVIRUPAKSHA寺院(8世紀)の内部の柱にも彫刻されています。

この彫刻は東南アジアの方が優れています。
カンボジアのアンコールにあるBAPUON寺院(11世紀)です。
イノシシを挟んでシヴァとアルジュナ。

シヴァとアルジュナの戦い。

シヴァからパーシュパタアストラを授かるアルジュナが彫刻されています。

BANTEAY SREI寺院(10世紀)の中央祠堂南面の楣にこの寺院を建立したバラモンのヤジュニャヴァラーハがイノシシとして彫刻され、その上に戦うシヴァとアルジュナが彫刻されています。

タイにあるクメール寺院SIKHORAPHUM(12世紀)の楣です。

中央に踊るシヴァ神、その左上にシヴァとアルジュナ、イノシシが彫刻されています。
インドネシアにはこの物語(マハーバーラタ)をもとに1035年に作られた「アルジュナ・ウィワーハ」というアルジュナの物語があります。
話はほとんど同じです。
東ジャワにあるSUROWONO寺院(13世紀)の基壇に彫刻されていますので、この彫刻を見ながら説明します。
「悪魔王ニワタカワチャが天界を荒らしまわっていた。神々はアルジュナに成敗をお願いする。危機を感じたニワタカワチャは部下のモモシムカをイノシシに変身させアルジュナを襲わせる。
<ニワタカワチャによって派遣された巨人モモシムカはイノシシに変身する>

<イノシシに変身したモモシムカとアルジュナ>

天界にいたシヴァはこの時とばかり、アルジュナの威力を試そうと山地人キラータに変身する。そしてイノシシめがけてアルジュナとキラータは矢を射る。するとその矢は一本となってイノシシに当たる。そこで両者は自分の矢だと主張して争いになりついにキラータは本性を現しシヴァ神になる。
<モモシムカのイノシシにアルジュナの矢と狩人に変身したシヴァの矢が同時に刺さる>

<猟師とアルジュナが争う アルジュナがキラータの足首を掴んで投げようとしている>

アルジュナは驚きシヴァの前にひざまずき礼拝する。
シヴァはアルジュナに天界の特別な矢を授ける」というものです。
<狩人に変身したシヴァが姿を表すと驚いてシヴァに帰依するアルジュナと供のプンカワ>

この物語は東南アジアで見事に開花しました。
特に「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」はインドネシアで好まれ、独自の文学を築き上げました。
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