2019/04/30
気になる話 その19 ERNST HAECKEL

以前箱根の強羅温泉に友人たちと行きました。
たっぷり源泉掛け流しのお湯を堪能した後、翌日の予定を考えました。
この旅館はポーラ美術館に近かったので、ポーラ美術館へ行くことにしました。
ポーラ美術館は林の中にあるとても近代的な美しい博物館でした。

その時は「エミール・ガレ―自然の蒐集」というエミール・ガレの展覧会を行なっていました。
私はガレやラリックが大好きなので興奮して入場しました。
ここでエルンスト・ヘッケルに出会うのです。
ガラス工芸の分野におけるアール・ヌーヴォーの旗手として知られるガレは、文学や哲学、修辞学、音楽、植物学、鉱物学、そして生物学といったように、多岐にわたる関心を有しており、特に森と海に魅了されました。

したがってガレの作品には森の植物、昆虫、動物、海の生物などが多いいのです。
その中で海の生物を研究、参考にしたのがヘッケルの書物です。

この展覧会にはヘッケルも紹介され、「驚異の海」というコーナーで参考にした著書「生物の驚異的な形」も展示してありました。
その図版にとても興味を持ったのです。
ヘッケルは1834年に生まれ、医者で比較解剖学の教授になりました。

画家としても認められ、特に生物画家として高く評価されています。
有名な「生物の驚異的な形」は当時百科事典が流行し、この本も各家庭に浸透したと言われています。
この時代19世紀後半はジュール・ヴェルヌの『海底二万里』の流行に代表されるように、19世紀後半は海洋学や海の生物についての関心が一際高まった時代でもありました。
ガレ自身も「深海に潜る勇敢な海洋学者たちが、大洋の神秘をわれわれにもたらしてくれ、研究者は海の七宝螺鈿ともいえる珍しい物体の形態を写生し出版して芸術家に供してくれるのです。」と言っています。

生物学者だけでなく、アール・ヌーヴォーやユーゲントシュティールといった20世紀初頭の芸術や建築にも大きな影響を与えています。
ヘッケルの研究はクラゲなどの無脊椎動物、放散虫(海産プランクトン)の図解研究が有名です。
この「生物の驚異的な形」の放散虫の幾何学的美しさは驚異的です。
早速取り寄せたこの本は放散虫、クラゲ、クモヒトデ、ナマコ、貝、フグ、カメ、カエル、コウモリ、ハチドリ、シダ、ラン、など100枚ほどの美しいイラストで構成されています。






見ていると放散虫もフグも植物のランも同じ仲間に見えてくるから不思議です。
この本のタイトル「Kunstformen der Natur」は「生物の驚異的な形」と訳されていますが、「自然の芸術的形態」の方がぴったりします。
この本の最重要テーマの一つが対称性と秩序です。
これが自然の芸術的形態だと思います。
ヘッケルの影響はアールヌーボーのガレだけではなく、建築家のルネ・ビリにも影響を与え、1900年パリ万博の入り口の門もまさに放散虫類です。

植物学者で写真家のカール・ブロスフェルトもヘッケルに触発されて植物のクローズアップ写真を沢山残しました。

ヒメシャラの林が美しい、箱根の美術館でとても素晴らしい体験をいたしました。
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