2017/11/27
寺院の彫刻 その43(カルキン2)

東南アジアでカルキンを見つけるのは大変です。
もちろん見つけることも大変ですが、見つかった馬頭人身の像がカルキンなのかハヤグリーヴァなのかわかりません。
カンボジアでは馬頭人身の像をヴァージムカ(馬の頭を持つもの)と呼びます。

ヴァージムカはヴェーダを盗んだカイタヴァとマドゥに闘いを挑むヴィシュヌ神あるいはハヤグリーヴァの化身であると言われていますので、ヴァージムカはハヤグリーヴァと同じ神と思われます。
東南アジアでは白い駿馬に跨がったカルキンは見つけられませんでした。
馬頭人身の彫刻、彫像はカンボジアにだけ見つかりました。
それがヴァージムカです。
ただ彫像の解説にはカルキンと説明されているものもあります。
寺院彫刻から見てみたいと思います。
2カ所しか見つけられませんでした。
1つはアンコールの至宝バンティアイ・スレイ寺院の楣にありました。

BANTEAY SREI 寺院 967-69年
JAYAVARMANⅤ世のグル
YAJNAVARAHAの建立
バラ色砂岩の美しい寺院で建立は王ではなく、近くの土地を領し王師を務めていたヤジュニャヴラーハが967年に行いました。
ここの彫刻は深肉彫りで素晴らしい出来です。
中央に馬頭人身の神が左右のアスラの髪を掴み押さえつけている彫刻です。

BANTEAY SREI 寺院
第一東塔門 楣の彫刻
とても細かい厚肉彫りで素晴らしい。
4腕で右後ろ手にチャクラを持っており、
左後ろ手は欠損している。
左右のアスラがカイタヴァとマドゥ
もう1つはシェムリアップから北東に120kmのコーケー遺跡群KOH KERのPRASAT THOMの楣に彫刻されています。

PRASAT THOM 寺院 921年
JAYAVARMAN Ⅳ世により建立

PRASAT THOM 寺院
楣の彫刻
保存状態が悪く、ヴァージムカがほとんど
崩落している。
左右にアスラのカイタヴァとマドゥが
彫刻されている。
コーケーは928年にジャヤヴァルマン4世がアンコールから遷都して作りました。
彫刻は以上2つですが、彫像は4つ見つかりました。
プノンペン国立博物館にあるカンダル洲クック・トラップで発見された7世紀のヴァージムカは傑作です。

プノンペン国立博物館
7世紀
プノン・ダ様式
肩幅が広く、強靭な身体、腰のひねりトリバンガはプノンダ様式です。
下半身を覆う着衣がそのまま足下を補強しています。
馬頭と人身がとても自然で神々しい像です。
次の像はサンボールプレイクックSAMBOR PREI KUKのN-7祠堂から発見された像です。

SAMBOR PREI KUKのN-7祠堂
7世紀
10世紀のプレ・ループ様式で、頭頂は華やかな冠帯で装い、衣文の線条化が見られます。

Sambor Prei KukのN-7祠堂
10世紀のプレ・ループ様式
サンボールプレイクックはプレアンコール時代の7世紀初頭にイーシャナヴァルマン1世によって王都イーシャナラプラとして建てられました。
森に囲まれた寺院群は6グループに別けられ、130以上のレンガ造の寺院からなります。
その後N-7祠堂に安置されたと思われます。
ネアン・クマウPRASAT NEANG KHMAU寺院から見つかった彫像はバケン様式で首がなくカンダル洲クック・トラップで見つかった像に首のつなぎ方が似ています。

PRASAT NEANG KHMAU寺院
10世紀
PRASAT NEANG KHMAUは10世紀に建立されたレンガ造りの祠堂で、現在2つが残っていますが初めは3祠堂形式だったと思われます。

PRASAT NEANG KHMAU寺院
10世紀
バケン様式
この10世紀のヴァージムカはサンボールプレイクックで見つかった像と同じプレ・ループ様式でよく似ています。
八角形の宝冠と幅広の冠帯がアクセントになっています。

10世紀中頃
プレ・ループ様式
この像は前の像と非常に良く似ています。
制作時期も一緒です。
口元や目が優しい印象です。

10世紀中頃
プレ・ループ様式
カンボジアではブラフマーの口から滑り落ちたヴェーダを盗んだアスラを退治するヴァージムカのモチーフが好まれた様です。

既に7世紀にはインドのマトゥーラの影響を受けた像が造られていたのです。
その完成度の高さに驚きです。
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