2017/02/14

今回はヴィシュヌの第8の化身クリシュナのお話です。
クリシュナはインドで一番人気のある神様です。
女性にも男性にも人気のスーパースターです。
クリシュナは「黒」を示し浅黒い肌の男性として描かれます。
おそらく非アーリアン系のヤーダヴァ族の指導者がその後神格化されたと見なされています。
クリシュナにまつわる物語は数多く語られています。
その中でも中心をなす「カンサを殺すクリシュナ」の題材から見て行きます。

「ヤーダヴァ族の王カンサは多くの悪行を働いていた。神々は対策を協議し、ヴィシュヌがカンサの妹デーヴァキーの胎内に宿り、クリシュナとして誕生するよう定めた。ある時カンサはデーヴァキーとその夫のヴァスデーヴァを乗せた馬車の御者を務めていた。都への途上、どこからか「デーヴァキーの8番目の子がカンサを殺す」という声が聞こえた。恐れをなしたカンサはヴァスデーヴァとデーヴァキーを牢に閉じ込め、そこで生まれてくる息子たちを次々と殺した。デーヴァキーは7番目の子バララーマと8番目のクリシュナが生まれると直ちに、ヤムナー河のほとりに住む牛飼いのナンダの娘(同日に生まれた)とすり替え、2人をゴークラの町に逃がして牛飼いナンダに預けた。一方カンサはクリシュナが生きていることを知り、すぐさま配下のアスラたちを刺客として送り込むが、ことごとく返り討ちにされた。そこでカンサはクリシュナとバララーマをマトゥラーの都へ呼び寄せて殺害を謀るもクリシュナに殺された」というものです。

この中でよく見られる題材は、カンサ王が子供を殺す、ナンダの元で暮らすクリシュナとバララーマ、カンサ王の刺客で美女に扮した魔女のプータナー、つむじ風となった刺客トリナーヴァルタ、牡牛の姿をしたアリシュタ、馬の姿をしたケーシン、象の姿のアスラ、アスラの巨人チャヌーラとシュティカと戦うクリシュナとバララーマ、カンサの髪をつかんで踏み殺すクリシュナなどです。
絵画では色々見つかるのですが、彫刻に関してはカンサの髪をつかんで踏み殺すクリシュナの彫刻がほとんどです。
先ずカンサが生まれてくる子供を次々に殺す場面です。
カンボジアのアンコール遺跡にあるバプーオン寺院にあります。
この場面はおそらく6番目の子供を殺そうとしていると思われます。
BAPUON TEMPLE 1060年
このパネルの左側に子供が5人彫られて
いるので6番目の子供を殺そうとしてい
ると思われます。
クリシュナの出産シーンです。南インドのHANGALにあるTARAKESHVARA寺院にあります。

TARAKESHVARA TEMPLE 12世紀
クリシュナの出産がとてもリアルに
表現されています。
次の場面はデーヴァキーとその夫のヴァスデーヴァが悩んでクリシュナを逃がす所です。
カンボジアのバプーオン寺院にあります。
BAPUON TEMPLE 1060年
パネルの左は悩んでいるデーヴァキー
とヴァスデーヴァ
右はクリシュナを逃がすヴァスデーヴァ
南インドのAMRETESHVARA寺院です。

AMRETESHVARA寺院 1196年
クリシュナをヤムナー川のナンダのところへ連れて行く

牛飼いナンダのところで育つクリシュナ
魔女のプータナーがクリシュナを殺そうとする場面です。
美女に変身して猛毒の母乳で殺害しようとしたプータナーです。
南インドのTARAKESHVARA寺院とALAMPURのSVARGA BRAHMA寺院にあります。

TARAKESHVARA TEMPLE 12世紀
猛毒を塗った乳首をあたえるプータナー
SVARGA BRAHMA TEMPLE 7〜8世紀
基壇のパネルで、一番右が猛毒を塗った
乳首をあたえるプータナー
次の場面は馬の姿をしたケーシンと戦うクリシュナです。
このシーンはポピュラーです。
バプーオン寺院、グプタ時代の彫刻が博物館にあります。
BAPUON TEMPLE 1060年
ケーシンと戦うクリシュナのパネル

LACMA博物館 6世紀
躍動感にあふれるとても素晴らしい彫刻です。
牡牛の姿をしたアリシュタと戦うクリシュナです。
バプーオン寺院にあります。
BAPUON TEMPLE 1060年
牡牛の姿をしたアリシュタの角をつかんで
戦うクリシュナ
ゾウのアスラと戦うクリシュナもバプーオン寺院で見つかりました。
BAPUON TEMPLE 1060年
ゾウの牙を持って殴りつけるクリシュナ
カンサの髪をつかんで踏み殺すクリシュナは色々見つかりました。
インドのホイサラー様式のLAKSHIMINARAYANA寺院にもあります。
LAKSHIMINARAYANATEMPLE 1250年
カンサの髪をつかんでいるクリシュナ
傑作はカンボジアのバンティアイ・スレイ寺院です。
BANTEAY SREI TEMPLE 10世紀後半
とてもリアルな彫刻で素晴らしい。
周りの人物はマトゥラーの町の人々
でしょう。左右の戦車に乗る人物は
クリシュナとバララーマだと思います。
バプーオン寺院でも見つかりました。
BAPUON TEMPLE 1060年
髪を引っ張っています。
バプーオン寺院はヴィシュヌ神話、特にクリシュナ神話とラーマーヤナが第三回廊までびっしり壁面に彫刻されています。
カンボジアのトマノン寺院、タイのピマイ寺院でも見つかります。
THOMMANON TEMPLE 12世紀
トマノン寺院のピラスターに
彫刻されています。
PRASAT PHIMAI TEMPLE
ピマイ寺院の楣に彫刻されています。
髪を引っ張り、足で押さえつけています。
東南アジアでもクリシュナの神話が好まれ、正確に伝わったことがわかりました。
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