2017/01/08

ヴィシュヌの第五の化身はヴァーマナ(矮人)です。
「ある時魔族の王バリは苦行によって無敵の力を得て、インドラの都アマラーヴァティーを攻撃し、バリは三界(天界、地上界、地底界)の支配者になった。この事態を嘆き悲しんだ神々の母アディティはヴィシュヌに救済を祈った。それにこたえたヴィシュヌはアディティの息子として生まれ、矮人のバラモン僧の姿でバリの宮殿に赴いた。そしてバリを讃えた。喜んだバリは望みのものを何でも与えると約束した。矮人は「三歩で歩けるだけの土地を頂きたい」と言い、聞き入られた。バリの師であるウシャス(シュクラチャリヤ)はこの矮人はヴィシュヌであることに気づき、要求を受け入れない様に忠告するが、バリはいったん約束したことを破ることは出来ないと言って忠告を斥けた。そのとたん矮人は巨大な姿となり第一歩で全地上を踏み、第二歩で天界を踏み、第三歩でバリの頭を踏みつけ地底界に封じ込めた」という話です。

一方で「バリはインドラとの戦いで命を落とした父ヴィローチャナの敵討ちのために地底界で善行をおこない公正で献身的な王となり、インドラの住む天界に軍を進めインドラ率いるデーヴァ族を打ち破り天界、地上界、地底界の三界を掌握した。彼の治世は喜びに満ち、世界はあまねく光り輝いて富にあふれ、三界のどこにも飢える者は無かったという」話もありますが結局ヴァーマナによって地底界に封じ込められます。
何となく不条理な話です。
バリは偉大なバリ(マハーバリ)と敬われ南インドの都市(マハーバリプラム MAHABALIPURAM)の名前になっています。
インドにおいてヴァーマナの彫刻は主に矮人の姿(太った子供)か巨大になって足をあげて三界を跨ぐ姿(TRIVIKRAMAトリヴィクラマ)で彫刻されます。
まずは矮人のヴァーマナを見てみます。
中央インドのカジュラホにあるその名もVAMANA TEMPLEです。
本尊は矮人ヴァーマナ像です。
この様な寺院を他に知りません。
VAMANA TEMPLE 11世紀
太った子供 意思が強そう(わがままそう)
同じカジュラホのKANDARIYA MAHADEVA TEMPLEの壁面にも彫刻されています。
KANDARIYA MAHADEVA TEMPLE 11世紀中頃
ミトゥナ(男女交合像)に混ざって太った子供
中インドのGYARASPUR近くのCHAUKHAMBHA寺院です。
ヴィシュヌに捧げられた寺院で残っている柱にヴィシュヌの化身が彫られています。
CHAUKHAMBHA TEMPLE 9世紀
柱にヴァーマナ
持物がよく解らない
RAJIMの寺院にも安置されています。
とても重要な寺院で、ヴィシュヌの彫刻、彫像が多い。

RAJIM TEMPLE 8世紀
境内のVAMAMA SHRINEに祀られている。
正統派のヴァーマナ
2臂で壺を持っている
光背がついている
西インドのBAROLIにあるGHATESHWARA TEMPLEにもあります。
とても立派なヴァーマナ像ですが、保存状態がよくありません。

GHATESHWARA TEMPLE 10世紀
とても小さいVAMAMA SHRINEに祀られている
4臂か?
頭光がついている
アメリカのLACMA美術館にMadhya Pradesh州で見つかった素晴らしいヴァーマナ(10世紀)があります。
とても手の込んだ像で職人の技術の高さがわかります。

LACMA美術館 10世紀
この美術館の収蔵品はすごい
完全な姿が見たかった
矮人の彫刻は多くはありません。
一方ヴィシュヌが三界を跨ぐトリヴィクラマの彫刻はいたるところで見られます。
南インドのバーダーミ石窟です。
第2窟、第3窟はヴィシュヌに捧げられた石窟なので、ヴィシュヌに関する彫刻が沢山見られます。
BADAMI CAVE 3 6世紀後半
8臂で典型的な形
とても細かく彫られている
PATTADAKALのVIRUPAKSHA寺院では素晴らしい彫刻で飾られた壁龕に彫られています。
VIRUPAKSHA TEMPLE 8世紀中頃
とてもダイナミック
上部のマカラの彫刻も良い
ALAMPURのSVARGA BRAHMA 寺院のトリヴィクラマは意匠が優れています。
この寺院は保存状態がとても良く、方位神をはじめ神話の題材や女神像などが残っています。
SANGAMESHWARAとともに一番の寺院です。
SVARGA BRAHMA TEMPLE 689年
明かり取りの窓の中央に彫ってある
石工の腕が良い
KANCHIPURAMのVAIKUNTHAPERUMAL 寺院はヴィシュヌの彫刻で埋め尽くされていますがトリヴィクラマは2階の壁面に彫刻されています。
VAIKUNTHAPERUMAL TEMPLE 8世紀後半
素材の砂岩がよくない
あまり良い出来ではない
MAHABALIPURAMにあるVARAHA MANDAPAに素晴らしい彫刻があります。
このマンダパの左右の壁にはヴァラーハとトリヴィクラマが彫られています。
VARAHA MANDAPA 7世紀後半
8臂で典型的な像
ホイサラ朝の彫刻ではHOYSALESHWARA寺院にありました。
HOYSALESHWARA TEMPLE 12世紀中頃
ホイサラ独特の衣裳が重そう
KIKKERIのBRAHMESHWARA寺院ではヴァーマナとトリヴィクラマの両方が見られます。
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BRAHMESHWARA TEMPLE 12世紀
右がバリとヴァーマナ
左奥がトリヴィクラマ
西インドのOSIANのHARIHARA 寺院の壁龕にも見つかります。
HARIHARA TEMPLE 8世紀
HARIHARA寺院は3つあるがすべてに
トリヴィクラマの彫刻がある
ヴァーマナはインド全域で好まれたモチーフです。
ホームページ www.ravana.jp