2016/12/03

ヴィシュヌの第4の化身、猪ヴァラーハについては以前「猪をめぐる冒険」として世田谷歯科医師会の広報誌「うめがおか 遺跡の旅XIX」に投稿いたしました。
今回新知見を交えてお話ししたいと思います。
野猪の化身神話は「ある時大地の全てが魔神ヒラニヤークシャによって海底に沈められたことがあった。困惑したブラフマー神はヴィシュヌ神に相談した。すると彼の鼻の穴から1匹の小さな猪が飛び出した。それは見る見るうちに巨大な山のような大きさになった。その巨大な猪(ヴァラーハ)は海に飛び込むと、大地を牙に引っかけて持ち上げてきた。ヒラニヤークシャはそれを妨げようとするがヴァラーハはあっと言う間にこの魔神を殺してしまった。そして大地を解放し、その結果大地は再び水の上に浮かんだ」と言うものです。

ヴァラーハは大地(女神プリトヴィ)を担いだ猪頭の巨人としてヒラニヤークシャを踏みつける姿で彫刻されます。
また純粋な猪の姿でも彫刻されます。
先ずは猪の姿のヴァラーハを見てみます。これらは全て彫像です。
マディヤプラディシュ州の小さな村ERAN(5世紀)にあります。
この猪は私がインド美術に興味を持つきっかけになった記念すべき猪です。
ここへ行くのは大変でした。
ERAN 5世紀
牙に大地の女神プリトヴィを
引っ掛けています。
体中に神が彫られています。
私が一番好きなヴァラーハです。
同じマディヤプラディシュ州の小さな村KHOH(5世紀)にも猪があります。
ERANもKHOHも今では寒村ですがグプタ時代は重要な町でした。

KHOH 5世紀
体型はERANに似ていますが彫刻は
ほとんどなくシンプルです。
有名なカジュラホの寺院群の中にも立派なヴァラーハ(11世紀)があります。
VARAHA TEMPLE 11世紀
ERANと同じ様に体中に674体の神が彫刻
されている。
大地の女神はいないが台座に女神の足が
残っているのでヴァラーハの首に腕を
まわしていたようだ。
猪頭人身のヴァラーハを見ます。
マディヤプラディシュ州のSAGARにあるSAGAR大学の博物館に素晴らしいヴァラーハ(5世紀)が置かれています。このヴァラーハもERANのヴァラーハと共にインド美術にハマるきっかけになりました。
SAGAR大学博物館 5世紀
猪頭人身のヴァラーハでは最高傑作
ピンク色の砂岩で出来ている。
ウダヤギリ石窟のヴァラーハ(5世紀)も傑作です。
第5屈の壁面全面に彫刻されています。神話に忠実に彫られています。
UDAYAGIRI CAVE 5 5世紀
迫力のあるヴァラーハが大地の女神プリトヴィを
引っ掛けている。
背後の壁面には線模様が刻まれているが
これは水を表し、水中を表現している。
左足でとぐろを巻くナーガのヒラニヤークシャ
を踏みつけている。
4段に並列する多数の神々、仙人、天人は
ヴァラーハの英雄的行為を讃えている。
RAJIMのRAJIVALOCHANA寺院境内にあるVARAHA SHRINEにヴァラーハの彫刻があります。

RAJIVALOCHANA TEMPLE 8世紀
ヴァラーハの肩に乗っているのは
大地の女神プリトヴィ?
とても土着的な顔をしている。
とても古い3世紀の素晴らしいヴァラーハがアメリカのLACMA博物館にあります。

LACMA博物館 3世紀
大地の女神が可愛い
南インドのBADAMI石窟(6世紀後半)にもあります。
第2屈、第3屈はヴィシュヌに捧げられたので当然ヴァラーハが彫られています。
とても躍動感のある彫刻です。
BADAMI CAVE3 6世紀後半
4腕で1つに大地の女神を抱え、他の腕には
チャクラ、法螺貝を持っている。
BADAMIの近郊のMAHAKUTAのヴァラーハも必見です。
MAHAKUTA TEMPLE 6〜7世紀
シンプルだがとても腕の良い彫り師が
彫ったようだ。
4腕で1つに大地の女神を抱え、他の腕には
チャクラ、法螺貝を持っている。
南インドのMAMALLAPURAMにある石窟(マンダパ)にもあります。
その名の通りヴァラーハマンダパ(7世紀後半)の壁面に彫刻されています。
VARAHA MANDAPA 7世紀後半
パッラヴァ朝独特のスリムな肢体。
4腕の前2本で大地の女神を
抱えている。
同じMAMALLAPURAMにある石窟ADIVARAHA MANDAPAの本尊として素晴らしいヴァラーハ像があります。
中は真っ暗で、身体に布が掛けられていますが、ヴァラーハの顔と大地の女神の顔を見れば素晴らしさは解ります。
ADIVARAHA MANDAPA 7世紀中頃
全体像を見てみたい。
壁面にも素晴らしい彫刻がある。
南インドのBELURにあるホイサラ朝のCHENNA KESHAVA寺院(12世紀初め)の身舍に彫られています。
ホイサラ朝独特の衣裳をつけています。
CHENNA KESHAVA TEMPLE 12世紀初め
ホイサラ朝独特の彫刻。
8腕で今まさにヒラニヤークシャと戦っている。
東インドのBHUBANESWARにある初期の寺院PARASURAMESHWAR(7世紀中頃)ではシカラに彫刻されています。
彫刻は初期オリッサ独特の意匠です。
PARASURAMESHWAR TEMPLE 7世紀
とても可愛らしいヴァラーハ。
インドではヴァラーハの彫刻はいたるところで見られます。
隣のネパールのカトマンドゥに素晴らしいヴァラーハ像があります。
インドの初期のヴァラーハと共通する彫刻です。
DHUM VARAHI と言って大きな樹の下の祠に祀られています。
金網越しに暗い内部を覗くと5世紀のグプタ時代の素晴らしい像が見えます。
DHUM VARAHI SHRINE 5世紀
暗く金網越しなので中が良く見えない。
2腕のようだ。
バクタプールの町中の小さな寺院VISHUNU TEMPLEで見つけました。大地の女神を担ぎ上げた可愛らしい彫刻です。

VISHUNU TEMPLE
PANAUTI のKRISHNA NRARAYAN寺院の壁にも描かれています。
KRISHNA NRARAYAN 寺院
8腕のヴァラーハ
東南アジアではヴァラーハはほとんど見かけません。
カンボジアのアンコール遺跡にあるBANTEAY SREI寺院(10世紀後半)の楣に、ここを作ったバラモン ヤジュニャ・ヴァラーハのトレードマークの猪が彫られているだけです。
BANTEAY SREI TEMPLE 10世紀後半
中央祠堂の楣に彫ってある。
とても精巧な厚肉彫り
中央はシヴァとアルジュナの戦い
台座の下に正面を向いた猪
ヴァラーハの化身は東南アジアではあまり人気がなかった様です。
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