映画の話 その32(ジョニーは戦場へ行った)

69コクロソノ
タイトルの「ジョニーは銃をとった(Johnny Got His Gun)」は第一次世界大戦時の志願兵募集の宣伝文句「ジョニーよ、銃をとれ(Johnny Get Your Gun)」の強烈な皮肉です。
ジョニー3
この映画は普通とは逆に現在が白黒、過去や妄想はカラーで描かれています。
第一次世界大戦の実写フィルムをバックにタイトルクレジット、その後とても長い沈黙で真っ暗な状態が25秒ほど続く。
やっと音声が入り白黒の映像がはいり、3人の医師が見つめる手術室であることがわかる。
ジョニー
医師達の話でジョーは胸と腹と性器だけは無事で意識も感覚もない植物人間状態なことがわかります。
延髄は無事なので心臓と呼吸中枢は機能しています。
そして興味本位の研究材料としてアメリカ軍のティラリー大佐がこの身元不明の負傷兵407号を引き取ることになります。
小脳の機能により身体的運動が見られるがこの運動に特別な意味はなく、大脳が甚大な損傷を受けているため研究するのだと言います。
喋れない、聞こえないジョーには痛みも喜びも記憶も夢も思考もないと思われています。
しかしジョーは皮膚の感覚や波動で人の出入りを感じます。
カラーに代わり出征直前のシーンで婚約者のカリーンがいることが解ります。
ジョニー4
またパン屋で働くジョーに父親が亡くなった知らせが届きます。
少しずつジョーの過去がカラーで解ります。
キリストが出てくる妄想シーンも有ります。
ジョーは手足がないこと、顎も舌も目も鼻もないことを感じ絶望するシーンは残酷です。
幻想のサーカスのシーンはフェリーニのようです。
ある日新しい看護婦が来ます。
ジョーは感覚で解ります。
看護婦はジョーを哀れみ涙を流します。
ジョニー2
看護婦はお花を生けてあげ、カリーンの思い出に堅くなった性器を愛撫してあげるのでした。
クリスマスにはジョーの胸に指でメリー・クリスマスとなぞってあげるとジョーは理解したのです。
初めて一方通行ですが意思の疎通が出来ました。
ジョーは子供の頃友人とモールス信号で電信を打ち合いました。
父親がそのことをジョーに思い出させ、頭を動かすことによってモールス信号で表現することができたのです。
しかし看護婦には理解出来ませんでした。
後日ティラリー大佐の回診がありました。
そのとき1人がモールス信号に気づきジョーがSOSを発信していることが解りました。
その人がジョーの額にモールス信号を打ちます。
「望みは何か」「サーカスの様な見せ物にしてほしい」「外に出すことは出来ない」「もしもあなた方が僕をみんなに見せたくないなら殺してくれ」「殺してくれ」「殺してくれ」大佐達はジョーを無視し出て行きます。
それを聞いていた看護婦は呼吸のチューブを鉗子でつまみ遮断します。
ジョーは彼女のために祈ります。
しかしそこに責任者が戻り鉗子を外し、元の状態に戻してしまいます。
最後はジョーのSOS助けてくれ、SOS助けてくれ、SOS・・・・・・・出終わります。
とても重く強烈な反戦映画でした。
私が大好きな江戸川乱歩の「芋虫」を思い出しました。
小説として大変面白いのですが反戦が中心のこの映画とは全く違うスタンスです。
原作者であり、脚本、監督のドルトン・トランボにスタンディンオベーションです。

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映画の話 その31(気狂いピエロ)

68バスデウォ
ヌーヴェルバーグの金文字塔と言われるゴダールの「気狂いピエロ」です。
公開されて1〜2年後に見ましたが、特別な印象はありませんでした。
記憶にあるのはカラーで色の使い方がとても面白いこと、「女と男のいる舗道」が大好きでアンナ・カリーナにまた惚れてしまったこと、いつも思うのですが、ジャンポールベルモンドがとても不味そうに一日中煙草をくわえている(決して吸っているわけではない)がいらつくなどでした。
あらためてみましたが最初の印象とあまり変わりません。
ピエロ
「フェルディナン(ベルモンド)は、金持ちの妻との生活に退屈し、逃げ出したい衝動に駆られていた。
そんなある夜、夫婦がパーティに出かけるため、幼い娘のベビーシッターがやって来る。
彼女はなんと、フェルディナンのかつての恋人マリアンヌ(カリーナ)だった。
パーティを抜け出し、1人で帰宅したフェルディナンは、彼女を車で送り、そのまま一夜を共にする。
翌朝目覚めると、彼女の部屋に、首にハサミを突き立てられた男の死体が。
驚く彼とは裏腹に、平然と朝食を作り歌うマリアンヌ。
フェルディナンは、わけは後で話すという彼女と一緒に、着の身着のままでパリを後にし、マリアンヌの兄がいる南仏へ向かう。
お金のない2人は、ガソリン代を踏み倒したり、物語を語ってチップをもらったり、車を盗んだり。
はては海岸の一軒家で、ロビンソン・クルーソーよろしく自給自足生活。
ピエロ3
フェルディナンは大満足だったが、マリアンヌは欲求不満を募らせ街に飛び出す。
そこで出会った小男(カルービ)がまたもハサミで殺され、マリアンヌは姿を消す。
フェルディナンはギャング2人組に捕まって、彼女の居場所を教えろと拷問されるが、何も知らないと分かり解放される。
マリアンヌを探し歩いたフェルディナンは、ようやく彼女を見つけるが兄と言われた男は恋人だった。
フェルディナンは二人を殺害し自分もダイナマイトを首に巻き付け火をつける。」
色の使い方が素晴らしい映画です。
パーティのシーンではカラーが赤、ブルー、モノクロに変わります。
その他衣装や小物に赤、青、緑が強調されます。
死体の血の赤とダイナマイトを巻き付けるフェルディナンの青いペンキを塗った顔が強烈です。
ピエロ2
一番の見所はマリアンヌが浜辺の林で歌う「私の短い運命線」、それに対してフェルディナンが歌い返す「君の腰の線」のシーンは「女と男のいる舗道」で踊るナナに勝るとも劣らないシーンです。
林の中を踊りながら歌うマリアンヌの身体の線は素晴らしい一言につきます。
おそらくゴダールも同じ思いでしょう(離婚はしましたが)。
色々斬新な手法やカメラワークを使った映画ですが、私にとってはすべてこのシーン(マリアンヌの腰の線)に集約される映画でした。
尻尾を持って振り回している犬のポーチ(口紅が入っている)も主役です。
もしもですがアンナ・カリーナの浮気が原因で離婚し、まだ未練たっぷりなゴダールが映画監督としての決着の付け方として、この映画を撮ったのならすべて腑に落ちる気がするのですが。
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映画の話 その30(探偵スルース)

67クンティボジョ
今回は「探偵スルース」です。とても素晴らしいサスペンスミテリーです。
興奮して映画館を出てきた記憶があります。
原作はAnthony Joshua Shafferで脚本も手がけています。
元々舞台劇でトニー賞を受賞した作品を映画化したものです。
出演者はシェークスピア俳優ローレンス・オリビエと個性派俳優のマイケル・ケインの二人です。
探偵スルース
オープニングクレジットがとても素敵です。
赤いスポーツカーに乗ったマイロ・ティンドル(マイケル・ケイン)が地方にある大邸宅に到着します。
庭の中から主人のアンドリュー・ワイク(ローレンス・オリヴィエ)の声が聞こえます。
ティンドルは庭に入っていきますがそこは生け垣で造られた迷路でいたるところに不思議なオブジェが飾ってあります。迷いながらやっとワイクに会えました。
探偵スルース4
ワイクは有名な探偵小説作家でティンドルはワイクの妻と浮気をしていました。
彼はワイクからの手紙でよびだされたのでした。
ワイクはティンドルに、浮気のことは知っていると告げ、ある奇妙な提案をします。
妻は自分との贅沢な暮らしに慣れきっているため、ティンドルとの質素な生活に満足できるわけがない、金庫に保険をかけた宝石があるのでそれを差し上げよう。
ティンドルは宝石を売って妻との生活費に使えばいい、と提案します。
ワイクの方も盗難届を出すので保険金が入ります。
彼にも若い愛人がいるので、妻と別れるのは別に構わないと言います。
保険をおろすため、本当に泥棒が入ったように見せかける必要があります。
いまワイクの妻は旅行中、召使も休暇を取っていて、屋敷はワイクひとりです。
そこでワイクの指示でピエロの衣装を着て、ティンドルはハシゴを伝って2階へ登り、金庫を爆破。
中の宝石箱を取り出します。
探偵スルース2
そこまでくると、ワイクはティンドルに銃を向けます。
ここまでやらせたのは実は彼の計略で、このまま泥棒ということでティンドルを射殺するつもりだったのです。
命乞いするティンドルを撃つワイク。
ティンドルは階段を転落してゆきます。
後日行方不明になったティンドルの捜査ということで刑事がやってきます。
近所で銃声を聞いたという人がいることで、この刑事は最初からワイクがあやしいと追及します。
追及されたワイクは事実を白状いたします。
この事件は狂言で妻と浮気していたティンドルにお仕置きをするためのゲームだった、撃った拳銃は空砲でワイクは気絶しただけだと説明します。
しかし階段から血痕らしきものが見つかり、壁にも弾痕が見つかり、さらにティンドルのシャツまで見つかります。
何が何だか解らず青ざめるワイク。
刑事は誇らしげに笑い、変装をときます(このシーンが素晴らしい)。
そこにはティンドルがいました。
今度はティンドルが騙したのでした。
さらにワイクがつき合っている若い恋人も殺し、その遺品も屋敷の中に隠し、早く探さないと警察が来ますよと脅します。
ワイクは必死に遺品を探し出し暖炉で燃やします。
その直後警察がやってきたとワイクが告げます。
しかしこれもティンドルのやらせでした。
ずたずたにプライドを傷つけられたワイクは高笑いをしているティンドルに銃口を向け発砲します。
今度は実弾でした。
探偵スルース3
この映画は二人の演技がすべてです。
前半はオリビエ、後半はケインと立場が入れ替わり、相手を追いつめる、また追いつめられる、素晴らしい演技力です。そしてそれを助けるのは屋敷のいたるところに置かれたからくり人形達です。
観客に対する仕掛けもあります。
出演者は二人だけですがクレジットに出演しない人達が載っているからです。
素晴らしいドンデン返しで「スティング」に勝るとも劣らない作品です。
美術が素晴らしく、イギリスの香りが漂う上質のミステリーでした。

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映画の話 その29(ファイブ・イージー・ピーセス)

66ロジョモロ
「イージー・ライダー」の制作スタッフが作った映画で当時期待して映画館へ行きましたがあまり印象に残らない映画でした。
Five Easy 1
裕福な音楽一家に育ったボビー(ジャック・ニコルソン)は当時のアメリカを象徴するように、ドロップアウトして石油採掘現場で働いている。
Five Easy 2
すべてに対してまったく無気力で何となく生活している状態で毎日を過ごす。
レイと言うウェイトレスと同棲して妊娠させているが結婚はまったく考えていない。
Five Easy 5
ピアニストの姉に会い、父親の状態が良くないことを聞きカリフォルニアからワシントンの小さな島にある実家に帰る。レイも連れて行くことになる。
途中わけの解らないヒッピー風の2人の女を乗せる。
生活環境の違うレイを連れて帰れないのでモーテルに残し1人で実家に帰る。
父親は車いすに乗り、意思の疎通も出来ない状態である(はたしてボビーを認識出来たか)。
実家には姉の他にバイオリニストの兄とその妻キャサリンがいる。
Five Easy 3
ボビーはキャサリンと関係を持ち自分を理解してくれると思いこむ。
そこへモーテルで待ちくたびれたレイが現れ、ボビーはいらだちレイを連れてカリフォルニアに戻る。
途中ガソリンスタンドでトイレに入り、鏡に映る自分の顔を見て絶望する。
ガソリンスタンドに止まっている大型トレーラーの運転手に雇ってもらいレイと車をその場に残し、北に向かって行ってしまう。
おおまかなストーリーです。
オープニングから始まる石油採掘現場のカメラワークがとても美しい。
ヒッチハイクした二人は一体何者?、当時のアメリカが直面した環境問題なのか、スーザン・ソンタグなどに影響された人達なのか、この2人がどうして必要だったのか、解りません。
この映画で流れるのはレイの好きなカントリーとショパンやバッハ、モーツアルトなどです。
私はカントリーが好きではありませんので関心はありませんでしたが、ボビーとキャサリンの会話の中でボビーにピアノを弾いてとお願いするシーンがあります。
ボビーは躊躇しながらおもむろに鍵盤に向かってショパンのプレリュード第4番ホ短調を弾きます。
キャサリンは感動します。
しかしボビーは「簡単な曲だよ」キャサリンは「感性に感動したのよ」
私にとってこの映画はこのシーンがすべての映画でした。
プレリュードは正にEasy Pieceなのですから。

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映画の話 その28(81/2)

65ウトロ
フェリーニの81/2です。
とても重い映画でした。
主人公グイド(マルチェロ・マストロヤンニ)の鬱状態が感染してきます。
オープニングからフェリーニの映像美満開です。
渋滞のトンネルの中、著名な映画監督のグイドは車の中でパニック障害を起こし、何とか車から脱出したと思ったら空中を浮遊しています。
81:2-2
高く舞い上がったグイドの足にはロープが結びつけられ、浜辺で男がそのロープを引っ張るとグイドは真っ逆さまに海に。
そこで夢から覚めます。
そこは温泉の保養施設でした。
グイドは次回作の構想中ですがスランプでアイデアが出ません。
心身ともにリフレッシュしようと温泉に来ましたが、そこに愛人は来るは、関係がうまく行っていない妻のルイザ(アヌーク・エーメ)は来るわ、スポンサーは来るわ、ついにスタッフまで来て、鬱はますます悪化します。
トラウマになった子供の頃のシーンは「道」を思い起こさせる名シーンです。
何とか少し構想が浮かびロケットの発射台のセットが出来ます。
ヒロインはグイドが大好きなクラウディア・カルディナーレに決まります。
圧巻はグイドの妄想シーンです。
そこはグイドのハーレムで愛人達に囲まれ、やりたい放題ですが、それでも妄想の中で妻ルイザはグイドに尽くします(おそらく現実ではルイザは主婦業をしていない)。
81:2ー4
グイドの妄想はフェリーニの妄想かもしれません。
クラウディア・カルディナーレはグイドの要請に応えてにグイドのもとにやってきます。
グイドはクラウディアを誘いドライブに行きます。
そこでグイドはクラウディアを必要としていないこと、映画は作らないこと、自分は死ぬであろうことをほのめかします。
フェリーニの8-1-2
一方スポンサー達は新作の会見を発射台のセットで行うことを決めます。
乗り気ではないグイド、質問には一切応えられないグイド、その時誰かがグイドのポケットにピストルをしのばせ、グイドに目配せします。
ポケットを探ってピストルを見つけたグイドは会見のテーブルの下に潜り、引き金を引きます。
最後のシーンはすべての出演者が真っ白な衣裳を着て歩いています。
夕暮れ時になりセットに照明がともります。
フェリーニの音楽隊の登場です。
セットの幕が開くと発射台の階段から全員か降りて来て、グイドの指揮で大きな輪になり全員が手をつなぎ踊りながらぐるぐる回ります。
81:2
夜になって終わりです。
素晴らしいシーンです。初めて見た学生時代は難解な映画だと評判で、理解出来ず寝そうになりました。
今、改めて見ると嘘のように霧が晴れ、とっても解りやすい名画であることが解りました。
グイドは監督を職業にしているので監督としての自分の資質に悩み、夫婦の不和、愛人の存在が絡み精神不安から鬱になります。フェリーニの素晴らしい映像とニーノ・ロータとワグナーの音楽がそれらを包み込み、マルチェロ・マストロヤンニ、アヌーク・エーメ、サンドラ・ミーロの演技力とクラウディア・カルディナーレの美しさが加わり最高の映画になりました。
マルチェロ・マストロヤンニは好きではありませんでしたが、次第にひどくなる鬱病の演技を淡々とこなします。
いつもそばにいる演出家がとても深刻な発言をするのが印象的でした。

8-2ウィジョヨクスモの花www.ravan

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